―― 技より先に「身体のOS(基礎構造)」をつくる
武術に本気で取り組むなら、最初の三年がすべてを決めると言われている。
この三年間で“何をするか”によって、その後の十年・二十年の伸びが根本から変わる。
多くの人は技や型を追いかける。
しかし、最初の三年で本当に行うべきは、
「身体操作のOSの構築」だ。
OSが未整備のまま技を積んでも、すべてが“力任せの上書き”になり、
どれだけ練習しても“強さの質”が変わらない。
ここでは、最初の三年間で絶対に外せない鍛錬を提示する。
脱力の再構築で力みの除去
―― 武術のスタートラインは「筋力の引き算」
多くの武術家が語るように、武術の大半の問題は、技術の問題ではなく“力みの問題”だ。
肩、首、股関節、指先──動作のすべてを邪魔しているのは無意識の緊張。
三年の最初の一年は
「力を入れる練習」ではなく「力みを外す練習」を徹底していく。
具体的には、
- スワイショウ(甩手)
- 站椿功
- 呼吸法・歩法
など
これらをすることにより、
- 動き出しが静かになる
- 初動の力みが消える
- 背骨の動きが自然に出る
- 呼吸の深さが変わる
といった効果が期待できる。
最初の一年は「引き算の年」と捉えていく。
軸の構築で身体を一つに束ねる
―― 打撃・投げ・受けのすべての基礎
武術の基盤は“軸”に尽きる。
軸とは、背骨の固い棒ではなく、
「揺れても折れないしなる中心線」のことだ。
軸が通らない限り、どれだけ技を覚えても“外側だけの動き”になる。
軸の構築には静的鍛錬が必要で、
その中心が 站椿功(たんとうこう) になる。
站椿功(たんとうこう)は最も重要な鍛錬
―― 「動かない」が最も身体を変える
站椿功は、合理的な立ち方を極限まで磨く鍛錬であり、
三年の修行の“心臓部”になる。
站椿功の目的
- 重力と構造を一致させる
- 股関節・丹田の中心を作る
- 足裏から頭頂までの連動ラインを整える
- 不要な緊張を徹底的に排除する
- 「押さないのに押せる」構造を作り始める
やり方(要点だけ)
- 足幅は肩幅、つま先はまっすぐ
- 膝は軽く緩め、「縦のゆるみ」を作る
- 骨盤は中間位
- 胸を張らず、背中も丸めず
- 腕は軽く前に浮かせる
- 呼吸は自然
最初の三年で、一番時間を使うべきは立つことだ。
立つ時間を増やして、身体を根本から変える。

スワイショウで脱力と丹田の調整を行う
武術の基本的な身体操作としてスワイショウ(甩手)がある。
スワイショウは中国伝統武術における基礎功のひとつで、両腕をゆったりと振る単純な動作を反復することで、身体全体の脱力と連動性を整える役割 を果たす。
スワイショウは単なるウォーミングアップではなく、筋力に頼らず重力と身体構造を調和させる訓練法 であり、最初の段階に取り入れるべき基礎鍛錬のひとつだ。
この動作を繰り返す中で、上肢や肩の緊張が自然に抜け、背骨・骨盤・下肢へと力がスムーズに伝わるようになる。
その過程で 身体の中心として意識される下丹田・腹腔のスペースが柔らかく機能し、動作全体のバランスが改善する。
スワイショウにより呼吸と動きが一致し、丹田周辺の筋膜や内臓支持組織が自然なリズムで動くことで、重力との協調が進む。
これは単に「丹田に力を集める」というイメージ的な話ではなく、
身体構造としての
脱力 → 連動 → 姿勢の安定 → 動きへの応用
というシステム的な変化を生む鍛錬だ。
定義としてスワイショウは簡潔だが、それを正しく反復することによって、筋力以外の身体的基盤(脱力と連動)が育成される。 このプロセスは、後の站椿功や歩法など身体操作体系の深化を支える前提となる。

歩法で連動のOSをつくる
―― 立つ → 動く への橋渡し
立つことで軸ができ、
歩くことで“連動”ができる。
ここでいう歩法は流派の型ではなく、
「重力と軸を保ったまま、最小のズレで移動する歩き」だ。
三年で磨く歩法の条件
- 足を蹴らない
- 膝を上げすぎない
- 上体の高さが乱れない
- 片脚立ちでも軸が崩れない
- 一歩ごとに丹田が先に動く
歩法を整え、
打撃・投げ・崩しの基礎を作る。
まとめ
―― 三年間は「技」より先に「身体を整える時間」
最初の三年でやるべきことは明確だ。
脱力 → 軸 → 站椿功 → 丹田 → 歩法
この順番で身体操作のOSをつくる。
OSさえ整えば、
どんな技を学んでも強さの本質はブレない。
逆にOSがないまま技を積むと、
十年経っても“力任せの初心者”になる。
最初の三年こそ、武術の真の入口だと考え、
じっくりと腰を据えて鍛錬していきたい。

